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平成25年度 拓殖大学学長 入学式告辞
平成25年4月4日
拓殖大学 学長 高橋 敏夫
新入生の皆さん!ご入学おめでとうございます。ご列席のご父母、並びにご親族の皆様にも、お子様方のご入学を、心からお慶びを申しあげます。
全国に783校ある大学の中で、拓殖大学に縁あって、集うことが出来たことを、拓殖大学の教職員と、その関係者全てが大変嬉しく思っています。皆さんを諸手を挙げて歓迎する次第です。
今、皆さんが座っている周りの人を見て下さい。おそらく今日、初めて逢った人が殆どだと思います。北は北海道から、南は九州、沖縄まで、そして、留学生を含めれば、皆さんは文字通り、世界各国から集まった、将来の日本、いや、世界を担う若者なのです。拓殖大学は、皆さんと出逢えたことに、感謝しております。人と人の出逢いの多くは、それぞれの異なる経緯の織り成す糸の、その一瞬の重なりから始まるものです。
しかし、皆さんが、この出逢いを大切にして、絆を強くして、そして共通の目的を持ちながら、苦楽を共にした仲間に成長した暁には、それぞれがお互いの人生に、大きな影響を与え、また、強い支えや力となってくれるのです。本日の入学式は、皆さんが拓殖大学に仲間入りして、多くの在校生と卒業生と共に、未来に向かって歩み出す最初の記念すべき式典なのです。
拓殖大学は、今、大学の紹介ビデオでご覧頂いたように、創立以来110余年の歴史を刻んできました。組織が歴史を刻めば、そこに自ずと伝統が生まれます。人に例えれば人格であり、DNAです。拓殖大学のそれは、正直に、まじめに、どんな困難にもめげずに、チャレンジする強靱な精神力と、豊かな人間性を持った国際人を育てることなのです。そのために私達教職員一同は、学生諸君を全力で支援する面倒見の良さを培ってきました。今後も支援してまいります。
拓殖大学のDNAは、「建学の精神」と「校歌」に象徴されますが、人材育成の理念については、本学の創立者桂太郎公は、第1回目の入学式において、紳士たる毅然たる品格を持って、世界へ出て行きなさい旨のお話をしております。具体的には、本学二代目の学監を務めた新渡戸稲造先生のことばを借りれば、次のようになります。すなわち、
「島国根性はやめなさい。何かというと直ぐに誰かに頼る。そうではなくて、自分で、ものを解決するという能力を持ちなさい。なおかつ、その国に行ったら、その国に従いなさい。ただし、全てを盲目的に従うのではありません。自分の持っている倫理観、日本人としてのアイデンティティ、これについてはちゃんと主張しなさい。悪いものは正しなさい。然し争うのではなく、コミュニケーションをとって相手を説得するような自信と能力を持ちなさい。」 という先生の言葉に尽きていると思います。
日本の大学の中にあって「国際大学」をいち早く標榜した本学は、今、言われているグローバル人材育成を、建学当初から教育理念の根幹としてきました。多くの留学生を受入、また、多くの諸君を海外へ送り出しました。皆さんの先輩が世界で活躍しております。今こそ拓殖大学の出番です。そのために皆さんには、これからやらなければならないことがあります。言うまでもなく大学は、学ぶ場、考える場、学問の場です。学問には王道はありません。近道も、楽な道もないのです。若い皆さんは、頭脳も筋肉も鍛えれば鍛えるほど伸びていきます。力を付けることが出来るのです。
だからこそ、今、皆さんは努力をし、大いに汗をかく時なのです。地道に、諦めることなく継続することが求められているのです。先ほど、面倒見の良いDNAを持つ大学であると話しました。しかし、私達全員がいくら皆さんに手をさしのべても、皆さん自身がやる気を起こさなければ、何事も達成できないのです。そういうわけで、皆さんには早い時期に自分の将来の夢や希望、目的を明確にして、その希望や目的に向かって邁進して欲しいのです。拓殖大学は、皆さんの持っている能力を引き出し、皆さんの隠れた才能を見つけ出し、補うべきところがあれば、補っていきます。私達が全力で支援致します。
皆さんにとって、大学に入っての最初の一年目が重要なのです。大学で学ぶことが、これからの皆さんの人生の基盤を創る期間であると位置付けられるならば、入学最初の一年間は、さらにその基礎となるものなのです。
目標を持つことと、基礎をしっかりつくることの重要性については、次の様な事例をお話ししたいと思います。今、東京の新たな名所となった皆さんもよく知っている東京スカイツリーがあります。地上634メートルの電波塔で、自立式鉄塔としては、世界一の高さを誇るものです。世界一を目指して、建築技術の粋を集め、それに現場技術者の優れた技と熟練とが相まって、着工後約四年の年月をかけ、見事に完成させたのです。情報化時代の東京の情報配信の機能を果たす、その優美な姿は、日本の技術力を世界に誇示することに成功しました。
しかしその様な華々しい外見の陰で、目立つことなくこの世界一という成果を支えた技術と工事があるのです。それは、東京タワーより狭い敷地内に、約二倍の高さのタワーを支えさせるという、強靱な基礎工事です。余り知られてはいないのですが、実はあのタワーの三本の足の下に、地下50メートルにも及ぶ大きな杭というより、ビルに匹敵するコンクリートのブロックが埋め込まれているのです。工事中には見ることが出来たかも知れませんが、完成した今となっては、その形や大きさを見ることは出来ません。多分、これからも話題にもならないと思います。目立たない、しかし絶対になくてはならないもの、それが基礎であり基盤なのです。
このスカイツリー工事の最終段階はタワーの最先端部にアンテナを取り付けることです。その取り付けの日が、あの東日本大震災が起きた一昨年の3月11日でした。東京でも震度5の大きな揺れが観測されました。しかし工事はけが人も出さず、またタワーにも異常が無く、無事に終わりました。タワーの完成です。もし、しっかりとした基礎工事がなかったなら、如何に緻密な計算と優秀な現場の技術があったにしても、タワーは文字通り「砂上の楼閣」となったことでしょう。
例え話が長くなりましたが、人生の目標や希望を叶えるための基礎を築く時期が、大学生活と言えるのです。そして、そのスタートが今ここから始まります。誰もが同じスタートラインに立っています。一人も欠けることなく、共にそれぞれのゴールを目指そうではありませんか。
皆さんの殆どが在学中に成人式を迎えます。在学中に、大人として社会人として身につけなければならない、基本的にして重要な事柄があります。それは人としての品格であり、豊かな人間性と倫理観の確立であります。皆さんが、高校生の時にあの東日本大震災が起こりました。一人ひとり、遭遇した場所も状況も異なることと思いますが、多感な時に経験した天災の恐ろしさ、受けた被害の甚大さは皆さんに大きな衝撃を与え、一生忘れられない出来事であったと思います。
震災の復興に関しては、帝都復興院総裁として辣腕を奮った後藤新平伯が話題になります。後藤新平伯は、拓殖大学の第3代学長を務めました。その後藤新平先生が残した有名な言葉に自治三訓があります。
それは、「 人のお世話にならぬよう、人のお世話をするよう、そして、むくいをもとめぬよう 」です。この言葉は後藤先生が、ボーイスカウト日本連盟初代総長を務めたときに、述べられたものですが、現代のボランティア精神にも通じる人間性であり、日本人の精神ではないでしょうか。東日本大震災で被害を受けた方々の、毅然とした行動は、世界各国から賞賛されました。この行動に共通する、自らを律し、人に優しく、コツコツとものごとに当たる豊かな人間性を育成する、それが本学の教育のバックボーンとなっているのです。
ご存じのように、昨年のオリンピックには、本学の卒業生が7名も出場し、メダリストも誕生しました。震災でともすれば沈みがちの日本の多くの人々に、喜びと感激、そして、勇気を与えてくれました。これらの快挙は、大学時代からコツコツと練習を重ね、諦めることなく地道な努力を続け、見事に初心を貫徹した結果です。正に拓殖大学の教育理念を実証した形となりました。
今、日本は、少子高齢化を更に加速しつつあります。震災の復興も実際には、その緒に就いたばかりです。これからの社会に一番必要なのは、日本の復興と発展を促す若い皆さんたちなのです。社会から期待されていることを忘れないでください。いろいろな分野に於いて、自らも輝き、培った専門知識と語学力、そして、まじめな人格に裏付けられた倫理観を持って、卒業の暁には、皆さん一緒に世界に飛び出そうではありませんか。
最後に、ご列席頂いているご父母、並びにご親族の皆様に申しあげます。皆様のご期待を一身に受けて育った大切なお子様をお預かりする事に、重い責任を感じております。私達拓殖大学教職員一同、全力を挙げてその責任を果たす覚悟でおります。どうぞ、本学の教育方針とその取組にご理解を頂きたくお願いいたします。そして皆様と拓殖大学とで、将来ある若者の成長にかかわって行こうではありませんか。
新入生の諸君、並びご列席のご父母、ご親族の皆様に、重ねて心よりご入学のお祝いを申しあげ告辞と致します。
掲載日:2013年04月05日